第68話
今は違う。
いつものようにドアの前に立っていた私は、突然背後からドンッ!と強い衝撃を受けて思わず前のめりになるようにバランスを崩した。
「おいおい、やめろってぇー」
「ギャハハハ」
「すいませーん、なんかコイツらがいきなり押してきてぇー」
「…大丈夫です」
振り返りはしなかった。
その声に反省の色は微塵も感じられなかったし、必要以上に会話なんてする気もない。
だからその人の顔だってもちろん見たくもない。
「あれっ!?もしかして…あの噂のサチちゃんですかぁ!?」
馴れ馴れしくもわざとらしく私の名前を口にしたその人に、遠くからはギャハハと複数人の笑い声が聞こえた。
「いやぁ、会いたかった!!こんな偶然ある!?もう奇跡の出会いだぁ!!今まで生きてきて俺一番嬉しい!!」
「……」
「てか俺毎日ライン送ってんだけど!!届いてるよね!?既読すらつかないって何事!?俺の愛のメッセージ!!」
「……」
まだ地元の駅までは十分以上ある。
最悪だ…
「ほらぁ!これだよ、これぇ!」
完全無視を決め込む私の目の前に突然突き付けられたこの人のものらしき携帯の画面にあったのはラインのトーク画面で、確かにその相手には私の名前があった。
何で私この人の…
「『会いたくて夜も眠れません!』『俺はいつでもオッケーです!!』『今日俺ん家親いませんけどどうですか!!』」
一つ一つ大声で、自分が私に送ったラインを馬鹿みたいに読み上げるこの男は、完全に私の反応を見て楽しんでいる。
依然として聞こえる笑い声だって、なんだかさっきよりも多くなった気もする。
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