第66話

「あ、うん」


私にとってこの振動はもはや当たり前になりすぎていて、だからこそ私の足に伝わるそれにはもう何も思わなくなっていた。



私の新しい携帯にまた届き始めた全く知らない人達からのメッセージは依然卑猥なものばかりで、でも私は以前のようにトモキくんからラインが来ていないかの確認しかしていない。


欲を言えばこの通知を知らせるブブッという音すら不快だから鳴らないように設定したいところだけれど、なんせ相手は特定の人というわけじゃないからそれはほぼ不可能。


それならば全通知をオフにしてしまおうとそうしたことはあったものの、逆に携帯の存在感が無くなりすぎてトモキくんのメッセージの有無すらも確認し忘れた。



あの時トモキくん、怒ってたな…



コトラを膝に乗せたまま私も携帯を取り出して確認をすれば、ラインの通知は“332”となっていた。


携帯を変えたことで一度リセットされても十日も経てばこれだ。


とはいえ夏休みや二学期開始早々の時に比べたら確実にペースは減ってきたと思う。


このまま静かに耐えていれば、いつかみんな私のことなんて忘れてくれるのかな。



私なんてきっとそのうち誰の目にも止まらなくなって、いるのかいないのかも分からないような、いてもいなくても同じみたいな…それで———…



「見いひんの?」



ぼんやりと今後のちっぽけな人生を想像して固まっていた私の意識は、セイの言葉で一気に現実へと引き戻された。


「…あ、うん、見る」


そうだ、トモキくんだ。


そこはちゃんと確認しておかなければならない。


慣れた手つきで携帯を取り出しラインを開いてトーク一覧を確認したけれど、トモキくんからメッセージは来ていなかった。



トモキくんに会った最後のあのコーラを持って行った日から、約二週間が経った。


そろそろまた呼ばれる頃じゃないだろうか。

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