第65話

「それが例のしつこい女?」


携帯の画面を見つめたまま固まるセイにそう聞けば、「…あぁ…まぁ…」と何とも歯切れの悪い返事が返ってきた。


「その子、ミナっていうんだ?」


「……」


何も言わなくなったセイにもう一度そちらを見れば、彼は少し困ったような顔をしていた。


「あ、ごめん、さっき見えちゃって。一応言っとくけど私今怒ったりしてないからね?ほら、私って彼女でもフリなんだし、いくら本気でセイのことを彼氏だと思うにしたって嫉妬とかはしようと思ってできることではないから」


「おう…そらもちろん分かってるよ」


私はてっきりセイが私への不必要な気まずさを感じてテンションが下がっているのだと思っていたのだけれど、


「…はぁ…今から電話してもええかって」


とても面倒臭そうにセイが軽く携帯を持つ右手を上げながらそう言ったから、今のそのテンションは“ミナ”から連絡が来たからなのだとすぐに分かった。


「無理って言うわ」


私が何か言うよりも先にまた口を開いたセイは、そう言ってすでに何か文字を打っていた。


「え、いいよ?私のことは気にしないで?」


「してへんて」


そう言いながら返信を終えたらしいセイは、またすぐに携帯をズボンのポケットに入れていた。


「いちいち要望に応えてたらあかんやん。俺コイツから離れたいのに」


「あ、そっか…」


「おう」


セイは何と返信をしたんだろう。


突き離したいくらいだからきっとその内容に優しさは含まれていない。


“ミナ”さんはそれに対してどう思ったんだろう。



まだ関わりを持って僅かな時間しか経っていないけれど、いくらしつこいとはいえセイが誰かに冷たい態度をとるところって想像できないな…



「そっちもさっきからちょこちょこ鳴ってんで?」


振動音から私の携帯がどこにあるのか分かってでもいたのか、セイはそう言いながら私のスカートのポケットを指差した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る