第64話
「一ヶ月で足りるならそれでええし、半年いるならそれでもええし」
「……」
「サチどれだけ時間かけても無理やと思うみたいなこと言うてたし、その辺のことは気にせんでええよ。全部サチに任せる。俺めちゃくちゃ急いでるってわけでもないから」
セイは話しながらそっと両手でコトラを持ち上げて、そのままベンチに腰掛けるとコトラを膝の上に乗せて頭を撫でた。
だから私もすぐに立ち上がり、セイの左隣に腰掛けた。
「俺だってこんなこと頼むからには変に責任も感じて欲しくないし」
「うん…ありがとう」
「いやいや、こちらこそ」
何を思ったのか、セイはまたすぐにコトラをそっと両手で持ち上げると今度は私の膝の上に乗せた。
「…足に乗せたの初めて…」
「あ、そうなん?」
「うん…あんまり触って怖がらせちゃったら申し訳ないから、頭とか顎の下とかしか触ったことない」
「そっか。でも大丈夫やで、コイツ人懐っこいし」
「…うん」
私の膝の上に来たコトラの口元に私もそっと指先を近付けると、コトラはさっきセイにやったように私の指先も小さな舌で優しく舐めてくれた。
それをセイが「舐めてくるのは敵意がないことを示す猫の愛情表現なんやって」と教えてくれて、私はますますコトラが愛おしくなった。
ちょうどその時、ブブッと携帯の短く震える音がした。
そのタイミングでスカートのポケットにあった私の携帯が震えることはなかったから、今の音はセイの携帯なのだとすぐに分かった。
反射的にパッとそちらを見れば、セイは私のその判断通りすぐにポケットから携帯を取り出して少し操作していた。
その時不本意に見えたその画面はラインのトーク画面で、相手は“ミナ”という名前だった。
それこそ不本意に見えてしまわぬよう、内容が視界に入ってくる前に私はそちらから膝の上にいるコトラへと顔を戻した。
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