第63話
「いやいやいや、そっちの方がセンスはないよね?」
「え?そんなことないやろ」
「あるよ!だってそれならコトラを見つけたのが年末だったら“オセイボ”で年始だったら“オトシダマ”にするのと変わらないもん」
「いやそれ全然ちゃうし。“ハジメ”にはちゃんと高校生活始まったぞー!っていう意気込んだ特別な気持ちが込められとんねん」
「それセイ側の都合じゃん」
「俺の都合の何があかんねん。大体猫に名前つける時点で人間のエゴなんやから別にええやろ。てか“コトラ”だってサチの都合やん。コイツ百パー虎の存在知らんねんから」
「でも“コトラ”は可愛いじゃん!!」
「主観でもの言うんやめろって。それで言うなら俺は“ハジメ”の方が可愛いと思とんねん」
こちらではなくコトラを真っ直ぐに見つめながら淡々と反論してくるセイに、私は無性に腹が立った。
「でも今私が買ってきたご飯食べてるからこの子はやっぱり“コトラ”」
「はぁ!?それはズルいやろ!」
「ズルくないよ。だって本当のことだもん。それに体に良くないパンなんかをあげる人に命名権なんてものはありません。もう二度と“ハジメ”なんて呼ばないでください」
「お前誰やねん」
コトラは私達が自分の名前で揉めているなんてつゆ知らず、黙々と止まることなくひたすらご飯を食べ進めていた。
「…なんか本人はどうでも良さそうだね…私達こんなに揉めてるのに」
「…そらそうやろ…それより飯くらい静かに食わせろって思てんちゃう?この恩知らずめ」
「…ふふっ」
セイの言ったことをコトラが本当に思いながら食べていると思えばなんだか可笑しくて、私が笑えば隣のセイも「ははっ、てか“オセイボ”って何やねん」と思い出したように笑っていた。
こういうくだらい喧嘩とか言い合いって、付き合っていたら当たり前のようにみんな経験するんだろうな。
揉める間もなく会話すらなくなった学校の人達のことを思えば、こうやって人と考えをぶつけ合うのだっていつぶりなんだってくらいに久しぶりだ。
「もしかしてセイの用もこれだった?」
「そうそう」
「いつも来てるの?」
「いや、いつもではないよ。来れる時に適当に来て適当に帰るだけ」
「そっか」
さっきは本気でムカついたけど、終わってみればやっぱり人との会話は“楽しい”でしかない。
改めて、セイの頼みを引き受けてよかった。
「そういえばさ、何で三ヶ月なの?」
「あぁ、付き合う期間?」
「そう」
「別に理由なんかないよ。三ヶ月あればサチも彼氏がおることに慣れれるんかなーと思って適当に言うただけ」
セイはそう言いながらすでにご飯を食べ終えたコトラにそっと自分の人差し指を近付けていて、コトラはその先端をペロペロと舐めていた。
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