第61話
「そうなんだ…私も毎日学校の行き帰りでこの子にご飯あげてる…」
そう言って私もコンビニの袋から猫の餌の缶詰を取り出すと、「あー、そうなんや。コイツそれめっちゃ好きよな」と言いながら今度はセイがベンチの前にしゃがみ込んでパンを小さくちぎってコトラにあげていた。
だから私もすぐに、その右隣に並ぶようにベンチの方を向いて再びしゃがみ込んだ。
「パンって猫に食べさせていいの?」
「ちょっとならいいらしい」
「調べたの?」
「もちろん。でもあんまりあげすぎると猫は消化不良起こすらしい。せやから、こっちはちょっとにするからそっちあげたってや」
セイは私の持つ缶詰を指差しながらそう言うと、「俺今日これしか持ってへんから」と言って笑った。
「あ、うんっ!もちろん!」
薄々は思っていた。
もしかしたら私以外にもコトラに餌をあげている人がいるかもしれない、と。
私は自分のあげた餌の缶詰などのゴミは毎回自分で持ち帰って片付けているはずなのにたまにそのまま置きっぱなしにされているものを見たことがあったし、この前のトモキくんの家の帰りだって朝一しかあげてないのに私が買ってきたやつをコトラは食べてくれなかったし。
きっとお腹がいっぱいだったのだろう。
でもまさかそれが昨日知り合ったばかりのセイだったとは…
「よし、パンはもうこれくらいにしとこな。お前にとったらもっとうまいもんサチが持ってるから」
セイのその言葉をきっかけに、私は缶詰の蓋を開けてコトラの前に置いた。
「…うまそうに食うてるなぁ」
「うん。今日も元気みたいでよかった」
コトラはどこから来たのだろう。
そしていつからここにいたのだろう。
私が見つけたのは高校に入学してすぐだったけれど、もしかするともっと前からここにいたのかな。
家族と逸れてしまったのかもしれない。
帰る家が分からなくなったのかもしれない。
聞くところによると、セイもこの子を見つけたのは偶然だと言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます