第59話
コンビニに入る直前でなんとなく振り返ってみると、もうそこにセイの姿はなかった。
なんかあっさり…
そりゃそうか。
私って彼女(仮)だし、あれこれされた挙句結局三ヶ月後に私がセイの望むようにはなれなかったら申し訳なくなるし。
最低限の交際で十分なんだよね。
だからこそ私はセイの“用”とやらの内容はあえて聞かないようにしたし、家の場所だって聞いたりはしなかった。
それはもちろん気になりもしなかったからだ。
セイだってきっと同じはず。
コンビニで、私はいつもの猫の餌の缶詰を買って出た。
今更だけど、一度駅内に入ってまた出てコトラのいる花壇のところに戻るこの流れってすごい無駄じゃないかな。
それならもう朝コンビニに寄るタイミングで帰りの分も買っておいたら学校からそのまま駅に入らずコトラのところへ行ける。
よし、明日からはそうしよう。
私のお小遣いの使い道は、コトラのご飯代でほぼ消える。
それで余るのは小銭が数百円だけれど、中学の時に手付かずだったお小遣いを大事に取っておいたからギリギリなわけでもない。
こんな私の微々たる買い物でも経済は回るし、何よりコトラのお腹を満たしてあげられる。
これ以上最適な使い道は、今の私には探したって見つからないだろう。
再び駅を出ると、私はバスターミナル奥の花壇をいつものように目指した。
もちろん花壇に用はなくそのそばのベンチへ行こうと足を進めていた私は、花壇のところに軽く腰掛け携帯を見つめるセイを見つけて「あ、」と小さく声を漏らした。
まだいたんだ…
ゆっくりそちらに歩き進めつつ、私は微かさ風に揺れる彼の髪を見つめていた。
セイの髪の色は一見すると黒に見えるのだけれど、こうして光が当たると茶色がかった毛先がやけに目立つ。
その茶色も明るいわけではなく、やっぱり“焦げ茶色”というのが一番しっくりくるような暗めの髪色だった。
独特…地毛かな?
「また会ったね」
すぐそばまで来たところで私がそう声をかければ、ずっと携帯を見ていたセイはパッとこちらに顔を向けた。
「え?え?」と言いながら私とさっき別れた駅の入り口の方を交互に見るセイは、どうやらまた私と会ったことに頭が混乱したらしい。
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