第58話

手を繋ぐという行為は、そこまで悪いものではなかった。


私より大きなその手は無駄な力が入っていないせいか柔らかくて、それでいてしっかり私の手が離れないように握られていた。



そのおかげか、校舎を出るまでに数人の生徒とすれ違ったけれど私はあまり気が滅入るような思いをしなくて済んだ。




「セイって部活とかしてないんだね」


「サチもやろ?」


「え?何で分かったの?」


「何でって昨日そのまま帰ってったし」


「あぁ、そっか」



高校に入学してから誰かと帰るのは初めてで、もっと言えば私は半年以上誰とも放課後を一緒に過ごしていない。



「そういや何も聞かんまま流れで歩いてるけどさ、サチって家どこなん?方向合ってる?」


「あ、うん!私電車だから」


「おー、マジか。ほんならちょうどええな」


「え、セイも電車?」


「いや、ちゃう」


「…え?」


今、完全にその流れだったよね…?


「じゃあ何が“ちょうどいい”の?」


「家はここから近いんやけど、俺もそっちに用あるから」


「あ、そっか。それは確かにちょうどいい」


「おう」



それから私達は、何でもない話を繰り返しながら約十分の道のりを淡々と歩き進めた。



「じゃ、ここで」


そう言ってセイが私の手を離したのは駅の入り口前だった。


「うん。用ってこっち?」


私がそう聞きながら学校とは反対側である左側を指差せば、セイは「いや、こっち」と言いながら今来た方向である右に腕を伸ばして指差した。


「あ、じゃあ私送るために通り過ぎたんだ?ごめんね、わざわざ」


「ええよ。そんな変わらんし」


「どうもありがとう」


「はいはい。じゃあまた明日」


「うん。じゃ」


付き合っているにしてはまだ少し距離感のあるような別れの言葉をお互い口にすると、私はすぐにセイに背を向けて駅内へと歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る