第57話
「平気。一、二センチ上がっただけだから高いってほどじゃないし」
「こんなもん?」
「うん、ばっちり。これでノートに板書もしやすい」
「サチ、一学期ずっとあれで授業受けてたん?」
「いや…うん、まぁ…」
本当は今日の三限からだけど。
このガタついた机は一体誰がどこから持ってきたのだろう。
それともクラスの誰かがずっとこれを使ってて、私のと入れ替えたんだろうか。
たった十分の休み時間でそんなことをしちゃうなんて…みんなの行動力はすごいな。
いや、そこまで嫌われる私がすごいのか?
「先生にも気ぃ遣ってよう言わんかったんやろ?遠慮しいやなぁ」
「…うん…」
「でもまぁこれで一件落着やな」
机の真横に立っていたセイは、そう言って右腕を机に乗せながらその場にゆっくりとまるで私と目線を合わせるかのようにしゃがみ込むと、私をほんの少し下から見上げてきた。
「ほんなら帰ろか」
「…うん」
その頃にはすでに教室に他の人は一人もいなくなっていた。
「外されたりしないかな…」
「へ?」
「ううん、何でもない。ありがとう」
ほんの少し妙な不安を抱えつつセイと一緒に廊下に出れば、すでに他の教室にも人はいないのか校舎はとても静かだった。
歩き始めて間も無く、右隣を歩いていたセイが突然左手で私の右手を掴んだ。
「ちょっ、」
「これくらいはええやん。せやないといつまで経っても俺のこと彼氏やと思えへんで?」
「そう…だけどっ…」
そういえば初めに“三ヶ月”って言われたんだったっけ…
あれってどうなったんだろう。
三ヶ月は短いのか長いのか、私が“怖くない男”を知る上で十分なのかギリギリなのか…
その答えは何も出ないまま、
「大丈夫。これ以上はマジで何もせん」
セイのその言葉に、私は引っ込めようと少し力を入れていた右手からゆっくり力を抜いてセイの左手をきゅっと握った。
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