第56話

部活に行った人やすでに帰宅した人を除いて今教室にいるうちのクラスの生徒は十人程度だった。


そのみんなが私を見ているかセイを見ているかで、それなのに私達はお互いにお互いしか見てはいない。



どこかでヒソヒソと声がする。


何を言われているのかまでは分からない。


そんないつもなら耳を塞ぎたくなる雑音も、今だけは心地よく思えた。



私に声をかける人がいて残念だったね。


…ざまあみろ。



そう思いながらひたすらにまっすぐセイを見ていた私は、スッと音を立てずに立ち上がり彼が忘れているであろう約束を口にした。



「机。直してくれるって言った」



私の予想通りセイはそのことをすっかり忘れていたらしく、「おー、そうやった、そうやった」と言いながら今度こそ遠慮なくこの教室に入って私のところまでやってきた。


「あれ?てか席変わったん?」


「うん。席替えした」


この教室内に均等に散りばめられた机から私の席は明らかにはみ出ているのに、セイは「そっか。一番後ろ最高やん」と言って深いことを聞こうとはしなかった。



「昼休みサチと別れたあと俺担任のとこ行くって言うとったやん?んでその時ついでにこれ貰ってきたで」


そう言ってセイがポケットから取り出したのは、白いキャップのようなものが四つだった。


「これ…」


「なんかこれ机の脚にめるらしい。んでアジャスターがついとるから下んとこ回したら高さ変えれんねん。担任曰くそれで平行にしたらええって」


「なるほど…」


セイは持っていた自分の鞄をその場に落とす勢いでドサッと床に置くと、すぐに私の机の脚の部分を両手で持ってひっくり返した。


そんなセイを、私は邪魔にならないよう少し下がったところで見つめていた。


「ここにめるんやな〜」


「わざわざ先生に言ってそれ貰ってくれたのに直すこと忘れてたの?」


「これ軽いからさ、ポケット入れとっても存在感ないねん」


そういう問題かな…?


「お、動く動く。これで高さ調整したらええんやな」


セイが貰ってきてくれたアジャスター付きの脚キャップは、特に何の問題もなく使えてちゃんと私の机のガタつきを直してくれた。


「どう?全部の脚にキャップつけるから全体的にちょっと高くはなるんやけど」


それも私をしっかり椅子に座らせて高さの確認までして。

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