第52話
立ったまま食べるんだ…
「おかんの弁当無駄にしたくないとかやっぱりええ子やんかぁ」
独り言にしては大きな声でそう言いながら嬉しそうにお弁当を開封する彼を見ていると、大好きなお母さんのお弁当を私の代わりに食べるのが彼で良かったと思った。
「うわっ!うまそう!」
自分が作ったわけでもないのに彼の一口目の反応になぜかよく分からない緊張を抱えていた私は、まず最初に卵焼きを食べた彼が「美味すぎて涙出てきた」と涙なんて一滴も出ていないのに大袈裟なことを言ったことで、全身からは一気に無駄な力が抜けた。
「親からこんなに愛されてる子が彼女とか俺幸せモンやで」
「そんな…え、ていうかもう付き合ってるの?」
「え?そうやないん?弁当は食うって言うたからもうええんやと思ててんけど」
「あ、そっか。じゃあそれで大丈夫。あっ、でも言い忘れてたけど、仮にも彼氏であろうともキスとかそういうのは」
「おう、分かってるよ。何もしいひんから。あくまでも彼氏、彼女、それだけ」
話しながらも彼のお弁当を食べる手が休まることはなく、私の小さなお弁当は早くも終盤に差し掛かっていた。
「でも付き合ってるっぽいことはすんで?せやないと電話でアレ、言えんやろ?ちゃんと彼氏と彼女にならんとさ?」
「うん…」
「せやから普段から一応俺のことはマジの彼氏やと思って生活してや?もちろんフリやけど、“フリや、フリや”ばっか思てたら本気で一生無理な気ぃするし」
「うん、わかった」
「ん」
短く返事をした彼はすでにお弁当を食べ終え片付けまで済ませていて、「ごちそうさん」と言うと再びお弁当箱は私の元へ返ってきた。
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