第50話

「男の人って私に女の部分を全力で求めてくるから」


「……」


「まるでそれしか求めてないみたいに。私はもちろん女だけど、それが全てじゃないのに……それでも私から女の部分がなくなったらもう必要ないみたいに、ただただそれだけを求めてくる」


「……」



“サチぃ…お前って穴だけは一級品だよなぁ”



トモキくんとの関係だって、全ては私の蒔いた種だから。



「自分がすり減ってるのが分かるから…このままいけばこの先私はどうなるのか、何も分からないからそれが怖いの」



決してあの人だけが悪な上で成り立っている関係なわけではない。


それでも一日でも早く逃げたいと思ってしまうのは、やっぱり私が“いいご身分”だからだろうか。



遠くに見える名前もよく知らない男子生徒の群れを見つめながらダラダラと思いのままに話し続けていた私がようやく彼へと顔を向けると、彼は真っ直ぐに私を見つめていた。



「私はこれからも地味に細々と生きていけたらそれでいい。だから、フリとはいえどれだけあなたと付き合ったところでいつになっても私があなたの望み通りのことをうまく言えるようにはならないと思う」



ここまで具体的な理由を話す必要があったかは分からないけれど、彼なら話してもいいと思った。


ただ私のことを知らないというだけの彼が、普通に話しかけてくれることでもう今の私にとってはこの上なく優しい人に思えてならなかったから。



「つまりは俺に心は開かれへんってこと?」


「俺にというより男の人にっていうか…」


「ならむしろチャンスやん」


何の迷いもなくそう言った彼は、私の「え?」という言葉を気にすることなく数メートルあった距離を埋めるように私の目の前までやって来た。


「何があったかは知らんけど、今は怖くてもいつか誰かのこと本気で好きになる日は絶対来るやろ」


「いや、そ」


「この先何十年て生きとったら」


「……」


無さそうだと答えようとしたのに、“何十年”なんて先のことまで言われたらそりゃさすがに分かんないし、私だって一度くらいは結婚とかもしたいけど…


「その時何もできずに後悔せんように、今ちゃんと知った方がいい」


そう言った彼は、“大丈夫だ”と言わんばかりに優しく笑って「男は怖い人だけやないって」と続けた。







この人はとても不思議な人だ。


冷静に考えてみればそんなものは明らかに余計なお世話なのに、確かにそうかもしれないなんて思いも密かに芽生え始めてしまうなんて。

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