第49話
周りからの視線も、なぜかもうどうでも良かった。
“味方してあげるから”
そんなの、毎日欠かさず作ってくれるこのお弁当の重みをもってすれば言われなくてもちゃんと分かることだ。
それに素直に甘えられないのは私が無駄に繊細だからだと思う。
“だっていい子やから”
いい子は、迷いもなく命を切り捨てたりはしない。
「…ん?ここ?」
黙って私について来ていた彼は、ようやく足を止めた私に向かってそう聞いた。
それは別棟の渡り廊下だった。
「ここなら人はいないし、通る人もほとんどいないだろうから」
「そかそか」
「…はぁ…」
私は一息つくと、ゆっくりと正面にいる彼から横の手すりへと体を向けてその真下を見下ろした。
ここは二階だから全然高くないな…
下、土だし。
「…私、怖いの」
「ん?…何が?」
「男の人が」
別棟に来たとはいえ、たくさんの人の声はこちらにもガヤガヤと聞こえてきている。
生徒の声も、先生の声も、男も女も。
昼休みだから騒がしいのは当然だ。
その中でもその声だけがやけに耳の奥に響いて聞こえてくる気がするのは、いつでも“私”をかき乱すのは男の人だったからだろう。
「え、いやでも昨日もさっきもやけど、今だって普通に俺と喋ってるやん」
「そういう意味じゃなくて」
やんわりと優しい言い方で否定した私に彼はまだまだよく分かっていなさそうで、黙って私を見つめるその目はより詳しい説明を求めていた。
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