第48話

三限であるその授業が終わると私は次の休み時間はただひたすらぼんやりと自分の席に座ってやり過ごし、そのまま四限の授業を受けた。



ずっと、ひたすら私は学生証を両手で握っていた。















昼休み、約束通り私の元へやってきた彼は、


「おったおった」


と、どこか楽しそうに誰も座っていなかった私の前の席の椅子にこちらを向いて座った。


そこは藤野の…


「考えてくれた?」


「……」


「さすがに時間短すぎ?明日とかまで待った方がええなら全然待つけど」


そう言いながら彼が私の机に両腕を乗せると、その拍子に机はガタッと大きな音を立てた。


「うお、何やこれ。ガタガタやん。これでいっつも授業受けてんの?早めに直した方が」


「私はいい子じゃない…」


彼の言葉を遮るには私の声はあまりにも小さかったけれど、それでも彼はすぐに話すのをやめて「え?」と言った。


そんな彼の反応に構わず、私は机と椅子の隙間から抜け出るように立ち上がった。


その時椅子は後ろの机へ、机は彼の座る椅子の背もたれへとガタガタッ!と一際大きな音を立ててぶつかったけれど、私にとってそんなことはもうどうでも良かった。



「移動してもいいかな?ここにはいたくないから」


「え?あぁ、それは全然ええけど?」


「ありがとう」


私はすぐに横に引っ掛けた鞄にずっと手の中にあった学生証を戻すと、その中からお弁当を取り出してそれを持って歩き始めた。


彼は黙ったまま、すぐに私の後をついてきた。

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