第46話

“だっていい子やから”



彼の言ったその言葉が頭の中で繰り返される中教室に入れば、その中の大半の生徒が私を見ていることに気がついた。


その目は決して鋭いようなものではなく、揶揄うようなニュアンスの嫌な楽しさのある類のものだった。



それらをいつものようにスルーしてそのまま自分の席へ向かうと、私の席はなかった。


厳密に言えばちゃんと机も椅子も定位置にあったのだけれど、後ろの席の女子がなぜか私の机と椅子がぴたりとくっつくように机を前にずらして私の座る隙間を潰していた。



「したらさぁ、そいつがぁ———…」


その女子は、自分の机の横で立ち尽くす私を気にする様子もなく周りの人と話をしていた。


これ以上ないほどに教室中から視線を感じる。


私がこの人達に一体何をしたと言うんだろう。




一度静かに息を吸ってゆっくり吐くと、



「ねぇ、」



私は後ろの席のその女子に声をかけた。



「…は?」


「座れないからもう少し下がってくれないかな」


「あー…いけるでしょ。あんた細いし」


「いや、無理だよ。隙間ゼロだもん。そっちそんなに広いし、」


「だもん、じゃねぇよ。気持ち悪りぃ」


「……」


急に言葉を荒げたその女子は、もう私を見てはいなかった。



「いつのまに違うクラスの男子と仲良くなってたのー?」


そんな明るい声が聞こえて今度は席の前方へ目をやれば、前の席である藤野がこちらを振り返って私を見ていた。



「いいなぁ、モテモテじゃん。さすがだね。あんたってたぶん出会う男全員対象内なんだろうなぁ。だってさぁ、中学の」



———…ガラガラガラッ…



藤野の言葉を遮るように次の授業の先生が教室に入ってきて、全員がガタガタと音を立てながら起立した。

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