第44話
「もう話は終わったよ!?休み時間も残り少ないし、私もう教室戻るから!」
「戻るって方向違うやん」
彼はそう言いながら私達がさっきいた校舎の廊下を指差していたけれど、私はそちらを振り返りはしなかった。
「休み時間めいっぱい使って戻りたいから遠回りするの!」
「なん」
「理由は面倒だから聞かないで!」
彼の言葉に先回りをしてそう言えば、彼は少し驚いたような顔で固まった。
そしてその一瞬の隙を私は逃しはしなかった。
「じゃ」
それだけ言って彼の横をすり抜けて通りすぎると、ようやく私の校内散歩は再開した。
まぁこれをする目的は少しでも教室にいる時間を減らしたいがためなのと誰にも話しかけられないように常に動き続けていたいというだけのことだから、実際彼に話しかけられたことは特に何かの弊害になったりすることはなかった。
きっともう休み時間は残すところ数分だろうから、このまま隣の校舎まで行ってその階を横に進み、もう一本あるさっきの校舎へと繋がる渡り廊下を通って帰ってくればちょうどいいだろう。
———…タッタッタッタッ…
いやいやいや…
「オッケー、オッケー。それなら戻りながら俺の話聞いてや」
「…さすがにしつこいよ?」
追いついた彼は、私の左に横並びになって歩きながら顔はこちらを向いていた。
そんな彼に、私はもちろん足を止めたりはしなかった。
「じゃあこれはどう?三ヶ月マジで付き合う」
そんな突拍子もない提案を口にした彼は私に向かって右手の指を三本立てていた。
「…え、」
「まぁこれも本当はフリなんやけど、一応その間は彼氏と彼女」
“彼氏”“彼女”と言ったタイミングで、今度は三本立っていた指のうちの人差し指で彼は自分と私を交互に指差した。
“付き合う”と言われた時点でそんなことは分かっている。
さすがに私をバカにしすぎじゃないだろうか。
「んで三ヶ月後に昨日言うたことをその女に言うてくれへん?んでその女と切れたらそのあとちゃんと俺らも別れる」
「……」
「まぁそもそも付き合うてるフリやから別れるもクソもないんやけど。それなら上手く言えるんちゃう?」
私達はひたすら歩きながら話をしていた。
昨日が初対面だった彼と翌日に付き合う付き合わないの話をしているだなんて、一体誰が想像できただろう。
「それ、私に何かメリットある?」
「交際経験がゼロから1になる」
「……」
あぁ…私はそれを理由に断ったんだっけ…
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