第42話
「こっちの校舎ってことは同じ一年なんやなぁ」
「うん。じゃあそっちも一年だったんだね」
「おう。てかそんな急いでどこ行くん?」
「どこにも」
「どこにも?」
「どこにも」
さっきまでやたらと気になっていた周りは、彼との会話が進むにつれて全く気にならなくなっていた。
そうか。
私は今この人と話をしているんだから、この人の目だけを見てこの人の声だけを聞いていればいいのか。
彼がさっきからずっと私にそうしてくれているように。
「へぇ…まぁええわ。なぁ、昨日のアレやっぱ無理?」
「フリってやつ?無理だって」
「家帰って他の手も考えてみたんやけど、やっぱもうこれしか思いつかんねん」
「だから絶対すぐバレるってば。私は誰かに“この人の彼女です”って名乗ったことなんて一度もないんだから。棒読み間違いなしだよ」
「……」
何も言わず少し目線を落とした彼にさすがに今のは言い方がキツかったかと慌ててまた口を開こうとした私だったけれど、その一瞬の隙をつくように「ねぇ、」と隣から声をかけられ私はすぐに彼からそちらへ視線を移した。
でもどうやらその声の主である女子生徒は、私ではなく彼に用があったらしい。
「え?俺?」
「うん。めっちゃ探したんだけど」
「あー、俺トイレ行っとったから」
「はぁ?それにしたって———…」
彼と会話をするその女子生徒は、声をかけたタイミングで彼の左腕を掴んだらしく今もなおずっと彼に触れたままだった。
…ていうか彼女のフリなんて、わざわざよく知りもしない私なんかに頼まなくてもそういう相手がいるならその人に頼めばいいのに。
それが関西にいる子のように彼女ではなく“彼女ができるまでの間に遊ぶ相手”だとしても、それはやっぱりその人に頼めば済む話だ。
何だかよく分からなくなってきた。
本当に彼は何も知らないのかな。
もしくは知ってる上で私ならそれを引き受けるだろうとか、友達とゲームでもして私はそのゲームのコマにでもされているんだろうか。
…冗談じゃない。
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