第40話
「嫌というか、私にそれは無理だと思う」
「“思う”?あー…彼氏おる?やっぱフリでも怒るかな?」
「じゃなくて不可能かと」
「その心は」
「交際経験がないからフリすらもまともにできずにバレてしまうと思う」
「電話でも?」
「うん」
「“今私セイと付き合ってるから”って言うだけでも?」
「うん」
「…そっかぁ…」
「……」
ていうか、そもそも“彼女ができるまで”なんて約束で遊んだりするこの人が悪いじゃないの?
それ遠回しに“お前は俺の彼女にはなれませんよ”って意味だし、そこまでしつこくされるということはその“遊ぶ”の意味や内容だってきっと清純なものじゃないはずだ。
男の人ってみんなそんなもんだし、まぁ好きにすればいいとは思うけど。
私が揺るぎなく断るつもりであることを全面に出し続けていたのもあってか、彼はそれ以上何か言おうとはしていないようだった。
「じゃあ、私は用があるから」
私はそれだけ言うと、すぐに彼に背を向けて正門から校外へ出た。
なんだか今日は濃い一日になった気がするな。
それも放課後に全集中した感じだけど。
これはコトラに聞いてもらうしかないな。
コトラのご飯を買うため駅内のコンビニに行った今日の私は少し気分が良く、コトラにはいつもより少し高い缶詰を買ってあげた。
それなのにそれを食べるコトラの反応はいつもと何の変わりもなく、そんな当然のようにうんともすんとも言わないコトラに、私は毎度のごとくベラベラと一方的に話を聞いてもらった。
そこで私は、家族とトモキくん以外の人と普通に会話ができたことがとても嬉しかったのだと改めて実感した。
まぁでも彼のあの頼みを断った理由は今考えたってもっともだと思うし、失敗に終わった時に変な責任感からくる無駄な罪悪感を感じることになるのもなんだか違う気がする。
だから、これでよかった。
まだ高校生活は始まったばかりだけれど、きっと大人になって高校時代を思い返すと山ほどある嫌な思い出の中に聞き慣れない話し方の彼とのよく分からないエピソードが一つ加わる。
それだけでも私にとっては十分なことに思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます