第39話
「…え、」
困惑する私に「あぁ、ごめん。そうやなくて、」と言葉を続けた彼は、なぜか笑顔で「フリでええんやけどさ」とこれまたよく分からないことを口にした。
「いや…ますます意味が…」
「あっちおる時からいまだにしつこい女がおってな?」
そう言いながら右腕を斜めに上げて空を指差す彼に促されるように、私も思わずそちらの空を見上げた。
「…あっち?」
今度は私がそう言って彼の差す方の空を指差しながら聞き返せば、彼はやっぱり「あっち」と繰り返してひたすら右上の空を指差していた。
それはつまり関西ということだろうか。
「連絡してくんなって言うてんのに全然聞いてくれへんから」
ゆっくり腕を下ろした彼は、その右手で今度は後頭部をガシガシと掻いていた。
「…元カノ…ってやつ?」
「いや、ちゃうよ」
「なら無視すればいいんじゃ…」
「“セイおらんと死ぬ”って言われてて…あ、ちなみにセイって俺の名前やねんけど」
高校生の会話にしては割とハードなその内容を、彼はもう私相手だからなのかがっつりと関西弁で話し続けていた。
「どっかの屋上におる写真とか送ってくんねん。せやから電話で『彼女でーす。もうセイに連絡とかやめてくださーい』って適当に言うてくれへんかな。さすがに彼女できたって分かったらもうしつこくしてこおへんと思うねん」
「それでもその人は死ぬって言うんじゃない?ていうかそれで本当に死なれたら私も後味悪いし…」
「いや、元々彼女できるまでって約束で遊んだりしてただけやし。まぁ言われたらそれはその時また考えるわ」
「……」
人が一人死ぬかもしれないというのにすごく楽観的だな…
もしかするとその女の子は頻繁に“死ぬ”と言っていたりするのかもしれない。
そのせいでその子の“死ぬ”が軽くなってるとか?
それでも本当に死なれたら困るから簡単に突き離すこともできないのか。
それはそうなんだろうけど、でも私には…
「…嫌?」
何も言わず目線を落としていた私に、少し距離をとった所にいる彼はそこからこちらを覗き込むように少し体を屈めていた。
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