第37話

考えてみれば、この学校の生徒とまともに言葉を交わすのは約二ヶ月ぶりだ。


たったそれだけでこんなに新鮮さは増すものなのか。



ていうか今更だけどこの人何年生?


私より背が高いから先輩?


いや、背の高さでそれを判断するのはさすがに安直すぎるか。


高校生だし、同じ一年でも男子なんてほとんど私より背高いもんな。


「これどうなってんの?」


「どうって…普通の三つ編みだけど…」


「俺こんなん絶対できへんわ。女子って器用よなぁ。自分でやったんやろ?」


「うん…三つ編みなんか簡単だよ」


「俺でもできる?」


彼はそう言いながら、なぜか自分の短い髪を摘み上げて笑った。


どれだけ話してもやっぱりこの人が何年生なのかなんて全く分からなかったけれど、入りがタメ口だったせいかそれがなぜか私にはしっくりきた。


「…あなたのは短すぎて無理だよ」


「ははっ、そうやんなぁ」


「三つ編みしたいの?」


「いや、全然!」


「……」


「あ」


「セイー」


彼の言葉を遮るように聞こえたその声に彼と私が同時にそちらを見れば、手前の駐輪場から一人の男子生徒がこちらを見ていた。


「えっ、コタ何でもうそこおるん!?」


「何でじゃないでしょ。てかそこで何やってんの?俺もう帰るよ」


「俺の鞄は!?」


「知らないよ。教室でしょ」


そう言った“コタ”と呼ばれた人は、それからすぐに私へと視線を移した。


その視線に、私は慌ててその人から目を逸らした。



なんだか流れでダラダラと普通に話をしてしまったけれど、“セイ”と呼ばれたこの目の前の彼が私のことを知らなかったのは偶然で、これが知っている相手ならどうだったろう。


誰が私の何をどこまで知っているのかは見当もつかない。


“コタ”が知っている人ならこのあときっと“セイ”だって知っている人になる。


油断大敵。


「じゃあ私はこれで」


「えっ?あ、待っ———…」


彼の言葉を最後まで聞くことなく、私は逃げるように歩き始めた。

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