第36話
両手でティッシュを開いて「はい、ここに乗せて」と言いながら彼に差し出せば、彼は「あぁ…ありがとう…」と言いながら私の手にあるティッシュの上にそれを乗せた。
「捨てるときのこと考えずに吸ってたの?」
「…あぁ…いや、学校で吸うんはこれが初めてやから…」
「そうなんだ。誰にも言わないから安心して」
私はそれだけ言うと、そのまま彼の横を通ってプレハブの正面へ回り、もう一度そのドアを開けてさっき投げ入れたゴミ袋の中に煙草を包んだティッシュを入れた。
今一度ドアをしっかり閉めたその時、
「それ信じる根拠どこにあるん?」
再び彼の声が聞こえて振り向けば、いつのまにか彼もこちらへ出てきていたらしく私の真後ろに立ってこちらを見ていた。
「…それ?」
「誰にも言わんってやつ」
「…根拠はないけど…煙草を吸うのはあなたの自由だし…誰かに言ったところで私にメリットがあるわけでもないから…」
この人はまだ、私のことを知らないのだろうか。
「あははっ、あんたドライやなぁ」
「それより関西の人なの?」
「え?」
「話し方」
「え!?出てた!?じゃない…出てた!?」
「ずっと出てたしイントネーションがもう違う。ちなみに今の“出てた”も、言い直す前と後は何も変わってなかったよ」
「うわー…やっぱ三年も離れたらあかんかぁー」
そう言って少し困ったように頭を掻く彼は、やっぱり私のことをまだ知らないようだった。
「てかすげぇー」
感心するような言葉を口にしたかと思えば、彼は突然私の左側の三つ編みを優しく手に取った。
そんな彼に私は思わず「えっ、」と声を漏らしたけれど、それは目の前のいる彼にすらまともに届かないほど小さな声だったらしい。
ぐっと体に力を入れた私を気にすることなく、彼はまじまじと手に取った私の三つ編みを見つめていた。
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