第28話
———…ガチャッ…
「…ただいま」
玄関を開けて足を踏み入れると同時にそう言った私の声はとても小さかったけれど、すぐにダイニングの奥の部屋でテレビを見ていたらしいお母さんの「おかえりー!」という声が聞こえた。
その直後にトントンと足音が聞こえてこちらに顔を出したのはもちろんお母さんで、なんだか少し困ったような声と顔で私を見ていた。
「ちょっとサチ、遅くない?もう二十時半過ぎてるよ?」
「ごめん、友達の家にいて…」
そう言いながらお母さんの横を通ってダイニングへ進めば、朝出続けていた水道の水はしっかり止まっていた。
「こんな時間まで?」
そう言いながら私の後に続いてやってきたお母さんは、やっぱり今もどこか困ったような声と顔をしていた。
「うん、喋ってたら盛り上がっちゃった…ごめんね」
「まぁそれなら全然いいんだけど…でもあれよ?あんまり遅くまでお邪魔してると向こうの家族も困るでしょう。夜ご飯の時間だってあるだろうし。頃合い見て帰りなさいね?」
お母さんのその言葉に目の前のダイニングテーブルへ目をやれば、私のものと思われるラップのかかったおかずがいくつかあった。
「うん…サナは?」
「とっくにご飯食べて自分の部屋いるよ。お母さんももう食べたから。サチも食べるよね?温めようか」
そう言ったお母さんの声はもうすっかり明るくて、私の返答も聞かずにラップのかかったお皿をレンジへ入れていた。
「ありがとう…ごめんね、一緒に食べてたら片付けも一気に終わってたのに」
「皿洗いなんて二回も三回も一緒だって」
なぜか楽しそうにそう言ったお母さんはこちらに背を向けたままひたすらレンジを見ていて、それが止まるのを今か今かと待っているようだった。
「…ありがとう」
「そんなお礼ばっか言わないのよ。家族だし、親なら子供が帰って来てご飯温めるのなんて当たり前のことなんだから」
「……」
「ほら、着替えてらっしゃい」
「うん…」
自分の部屋に入ると、私はすぐに制服を脱いで部屋着に着替えた。
その間も携帯は何度か短く震えていて、私はもうその音にすら心底うんざりした。
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