第27話
「え?寝てる?寝てるの?おーい」
初めはその態勢でじっと動かないコトラだったけれど、私がうるさすぎたのかゆっくり起き上がると私の手の届くところまで近付いて来てくれた。
「あ、ごめんね、うるさかったね、ありがとう」
そう言いながら、私はすぐについさっきコンビニで買ってきた缶詰の蓋を開けてコトラのそばに置いた。
「来ないって言ったけど来ちゃったよー。ほら、どうぞ。お腹空いたでしょ?」
でもコトラは、それに少し鼻を近付けただけでまたその場で座り込んで目を閉じた。
「え?いらないの?だって朝のあのご飯から何も食べてないでしょ?いいよ?食べな?」
伝わっているかどうかはさておき、何を言ってもコトラは重い腰をもう上げようとはしなかった。
「そっかそっか…今はそれより眠いのか…」
私の手よりも小さいその頭を、私は優しくゆっくり何度も何度も撫でた。
こんなそばで眠ってくれるのは心を許してくれてる証拠かな…
陽が落ちたとはいえ、何もしていなくても今はじんわりと汗をかく。
「…朝さ、私今日はもう来られないって言ったでしょ?トモキくんのところに行く予定だったからそう言ったんだけどね?今までね、トモキくんのところに行った後は絶対コトラに会うのはやめようって決めてたんだ。なんか自分が汚く思えちゃってこんなに可愛いコトラに申し訳なくて」
夏の生温い風が、コトラの頭に伸ばす私の右腕の上を何度も何度も通り抜けた。
「じゃあ今日は何で来たかと言うと、なんか思った以上に今日はメンタル削られちゃってさ。それでどうしようもなくコトラに会いたくなっちゃったんだよ。…聞いてないって?ははっ、ひどいなぁ」
夏なんて大っ嫌いだ。
「生きてるだけで人を癒してるコトラはすごいよね」
私はあと何度この季節を乗り越えなきゃならないんだろう。
しばらく可愛い可愛いコトラに傷付いた体と心を癒してもらったところで、私はコトラに朝あげた缶のゴミを回収して帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます