第19話
「もう腹一杯」
それを“フタを閉めろ”だと判断した私は、すぐにトモキくんの目の前にしゃがみ込んでそのペットボトルにフタをした。
その次の瞬間、
「えっ、」
フタを閉めるのがまだ目一杯とまではいかないくらいのところで、トモキくんは突然前のめりになって私の左の首筋に顔を近付けた。
驚いて思わず尻餅をついた私に、トモキくんは体が離れないようもっと前に出て体を私にしっかり密着させた。
その拍子に私の手から離れたコーラのペットボトルは、案外ちゃんとフタができていたらしく中身が漏れ出ている様子はなかった。
実際は分からない。
手元なんて見えやしない。
今の私に見えるのは、正面からピタリとくっついてきたトモキくんの肩越しに見えるその背中とこの部屋だけだ。
「え、じゃねぇよ。俺がお前に連絡すんのにコーラと煙草だけが目的なわけねぇだろ?」
「……」
うん、分かってる。
だから私はコトラに“今日はもう来られそうにない”って言ったんだから。
「もしかして俺がお前に会いたがってるとでも思ってたのか?」
「……」
トモキくんのその言葉に、私は黙ったままそっと全身の力を抜いた。
否定なんてしてもしなくても同じこと。
それならもう、このままぼんやり時間が過ぎるのをただ待っていたい。
「バカだよなぁー。でもサチのいいところはそういうとこだぞ?バカはバカなりにありもしない幸せ必死に追い求めてんだもんなぁー」
私に言っているのか独り言なのか、声を聞いているだけではよく分からないようなことをダラダラと続けるトモキくんは、そう言いながら私の両手首を取るとそのままそれを背中に回させた。
両手首が縛られているのは分かる。
何を使ってなのかはよく分からない。
硬いからおそらくタオルではない。
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