第15話

拍子抜けした私がパッと左に顔を向ければ、そこには自分の席に座って携帯を触るクラスの女子がいた。


「おはよう!」


あまり話したことのないその子にそう声をかけると、手元の携帯からスッとこちらに視線を上げたその人は少し驚いたように目を見開き、「あっ、えっ…」と戸惑い気味に目を泳がせて「お、おはよ〜…」と小さな声で言いながら立ち上がりどこかへ行ってしまった。


…どこに行ったんだろう。


もうすぐホームルーム始まるのに。



ゆっくり自分の席に向かって歩き始めれば、やっぱり私を異物のように扱う様子はここには存在しなかった。



だから不覚にも期待してしまった。



自分の席に到着するまでに私が「おはよう」と声をかけたのは四回。


どれも女子のグループで、一学期に何度も話したことのある人ばかりだった。



でも、返事が返ってくることは一度もなかった。



私が挨拶をしたところでこちらには見向きもせず、話を中断すらもしない。


二回声をかける勇気は持てず、そのまま通り過ぎた。




自分の席に座って教室内を見渡してみれば、よく分かる。


“異物じゃない”なんてとんでもない。



あらゆるところからチラチラとこちらを見ている人はたくさんいるし、内容が聞こえはしなくとも明らかに私のことを話しているようなのはちゃんと見て取れる。


携帯と私を見比べながらニヤニヤしている男子もいた。



………ん、了解。



私は少し目線を落とすと、そのままじっとホームルームが始まるのを待った。



それから体育館に集合して始業式、それが終われば再び教室に戻って二度目のホームルーム。



そうして私は今日一日の学校の日程を全て終えた。



その間、誰とも会話らしい会話はしなかった。


一学期それなりに仲良くしていた子とも目すら合わせることはなく、朝一挨拶をしてかろうじて返してくれたあの子も、声をかければ困ったように短く言葉を返してどこかへ行くからもう近付くのはやめた。

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