第13話

「私ね、今日はもう来れそうにないんだ。だからコトラ、明日まで頑張って生きててね」


そう声をかけながらご飯を食べるコトラの頭を人差し指の腹でそっと撫でても、コトラはこちらを気にすることなく食べ進めていた。


「本当は猫の食事って一日四回から六回くらいに分けてちょこちょこ食べるのがいいらしいんだけど、学校もあるし家もそこまで近いわけじゃないからそういうわけにもいかなくてさ…あ、でもドライフードなら傷まないからたくさん置いてても大丈夫かな?…いや、でもコトラはこんなに食いつきがいいんだから、あればあるだけ食べちゃうかな?」



ひたすら話しかけているというのに、コトラからの反応は当前何もない。


そんなコトラが、今の私にはどうしようもなく愛しく思えた。



「うーん…やっぱり一度にたくさん食べて持ち堪えてもらうしかないかなぁ。食べられるものを探しに行ったりしちゃダメだよ?この辺本当に車多いから」



言葉なんて、話せない方がきっと幸せだ。



「お前は何にも言わないね…そういうとこ、大好きだよ…」


そう言って今度は指先でコトラの左耳をツンツンとつつくと、くすぐったいのかコトラは食べ進めながらもくいっと少し顔を左に傾けた。


「ふふっ、ごめんごめん、私邪魔だね。もう静かにしときます…………………あ、」


思い出したように携帯を取り出してみれば、現在の時刻はすでに八時半になっていた。



「うわ、もうこんな時間…ごめんね、コトラ。トイレに寄ったせいで今日はもう時間ないや!誰もとらないからゆっくり噛んで食べなね!」



最後にもう一度優しくコトラの頭を撫でて、私は立ち上がりその場を後にした。



私、トイレに二十分近くもいたんだ…



最寄り駅から歩いてたったの十分で到着する私の高校は、少し歩けばもう周りを歩いているのは同じ制服の人ばかりになった。




そこら中から感じる視線が痛い。


それでも電車の時のように何か不快な言葉を投げられることはなかった。


…いや、実際のところは分からない。


単に聞こえる距離にいないだけなのか、早くも私がその耐性を取り戻したから耳に入らないのか、はたまたコトラの可愛さがカバーしてくれたのか。

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