第12話
駅内へ戻ってその中のコンビニへ行き、猫の餌の缶詰を一つ買ってそのまま私は駅から外へ出た。
私が早めに家を出た理由は他でもない。
「おーい、コトラー」
駅の正面には横並びに続くバス停がある。
そのすぐそばの花壇のところにある茶色いベンチ。
…の、下。
「お、いたいた」
両手のひらに乗る程度のその子猫は、高校に入学して間もなく偶然見つけた。
いつも怯えるようにそのベンチの奥に隠れているその子は、小さいながらもしっかりとある茶色の縞模様がとにかく可愛かった。
「ごはん買ってきたよー?ほら、こっちおいでー?」
いつ来てみてもベンチ下の奥の方でひたすら縮こまっているにも関わらず、コトラは優しく手を差し伸べればそっと私のその指先に鼻の先をくっつけた。
「…ふふっ…かわい」
すぐに人差し指をコトラの喉元に伸ばしてそこを優しく撫でれば、コトラは気持ちよさそうに目を細めた。
うちが団地じゃなかったらすぐにでも連れて帰るのに。
こんなところに一人でいさせるなんて心配だ。
変な人に連れて行かれたらどうしよう。
ニュースを見ていれば、世の中には言葉も話せない無抵抗の動物に平気で酷いことをする人だっているみたいだし。
そうじゃなくたって、ここは交通量も多いのだから自由気ままに散歩するにはあまりにも危険すぎる。
かといってここにずっといるのは体に悪そうだ。
私はしばらく、依然ベンチの下ではあるものの手前まで出てきたコトラが私が開けてあげた餌の缶詰をパクパクと少しずつ食べているのを見ていた。
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