第9話

それからすぐに電車が到着すると、私は周りから注がれる好奇の目を無視してそれに乗った。


すぐさま向かい側のドアの前を陣取って窓の外をひたすら見ていたから、車内が混んでいるのかどうかはよく分からなかった。



電車が発車し二駅を通過した頃、


「行け行け!」


背後からそんな声が聞こえて、私は嫌な予感がした。



「えー、俺ー?」なんて渋る男の声が聞こえて間もなく、


「ねぇねぇ」


真後ろの、これまでよりも格段に近い距離からそう声をかけられた。


私はそれを完全に無視した。


「おーい」


「……」


「ねぇって」


しつこいその人はそう言って私の右肩をトントンと叩いたけれど、やっぱり私はそれでも無視を続けた。


そうすればもうそれ以上触られることも声をかけられることもないまま数分が経った。



だから、完全に油断していた。



「こーれっ!!」



そう言って突然真後ろから顔の前に右手を回され、気を抜いていた私は思わずビクッと肩を震わせた。


その手にあるスマホは私に見せるように画面がこちらを向いていて、そこにはSNSで今もなお絶賛拡散中である私の過去があった。



「っ、……」


「これさ、マジ?」


「……」


「あんたすげーね。案外ガンガン行くタイプ?」


「……」


「何も言わねぇっつうことはマジってことでオッケー?」


「……」



ガタンガタン…ガタンガタン…


電車はいつものように小さく揺れながらしっかり前へと進む。


この揺れにも私の体はもう慣れた。


電車はこうして揺れるものだと知っている。


体はそんないつも通りの日常の中にいるはずなのに、視界には私の日常には相反するそれが存在しているせいで全てが非日常になってしまったようなチグハグな感覚を覚えた。

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