第7話
「お願いだからもう死ぬまで静かに息だけしててよ」
お母さんとの会話がひと段落したらしいサナの冷たく吐き捨てるようなその言葉に、ついにお母さんが「サナ!」と少し大きな声を出した。
今年から中学二年になったサナは最近、入学と同時に始めたテニスの部活を辞めたらしい。
本人は「つまんないから」と言っていたけれど、本当の理由はきっと私だろう。
「ていうかそのふざけた三つ編みは何なの!?」
「…地味でいいかなって」
「いや、意味分かんないし!被害者ヅラすんな!目立たないようにってあからさまな感じが余計ムカつくんだよ!!」
「いい加減にしなさい!」
一際大きな声で叱りつけたお母さんに、サナはやっと私からお母さんへ目を向けた。
「はぁっ……私もう学校行く!」
サナはずっと持っていたグラスをガンッ!と強めに置くと、そう言ってガガッと椅子を乱暴にズラして立ち上がり洗面所へ歩いて行った。
「あー、もうだから全部飲みなさいって言ったのにー」
お母さんはそう言いながら、サナが強くグラスを置いた拍子に少しテーブルに飛び散った牛乳を布巾で拭き取っていた。
ひたすら黙ってそれを見つめていた私は、お母さんがまたご飯を食べ始めると同時に自分のトーストにそっとまた一口
「……」
「……」
今ここにある音は、隣で納豆ご飯を食べるお母さんの箸と茶碗のぶつかる小さなカツカツという音と私の咀嚼音と、少し遠くから微かに聞こえるサナの歯磨きの音だけだ。
“私達は一生この人が生きてるだけで迷惑かけ続けられるんだよ!?”
…お母さん、パート先で何か言われたりするのかな。
私の名前はサチです。
“幸”と書いて“サチ”です。
たくさんの人に幸せを運んであげられるような子になってほしいと願いを込めて、死んだ父が名付けてくれたそうです。
何の取り柄もない、見た目は普通の十六歳です。
「…お母さん、ごめんね」
「うん」
私はサチです。
みんなに幸せを運ぶはずだった、サチです。
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