いざ交渉
「…あんた、授業中にそんな事ばっか考えてたの?」
せっかくの昼休憩だとゆうのに、友人のこの呆れようはなんだろうか。
「そりゃあたしだって授業抜け出してアッキーのとこに行きたかったよ?でもさ、現実そんなこと出来ないでしょ?」
「出来ないわ。当たり前に。そんな当たり前のことを授業中にずっと考えてられるあんたにビックリだわ…」
「そう?あ、でもね!考え事してたら授業があっとゆう間に終わるよ!」
「あーそう…」
お昼のお弁当を食べ終わったあたし達は、ジュースを買いに自動販売機へと向かっていた。
校舎の外にある自動販売機の前まで来ると、
「ミズキ、このあと先輩のとこ行くんでしょ?」
財布から小銭を取り出して、友人がそう問いかけてきた。
「うん!熱い鉄は熱い内に打たねばって言うしね!」
「…いやちょっと違うから」
すぐ呆れた表情を作る友人。
「“鉄は熱いうちに打て”だバカ…」
その直後、聞こえて来た言葉。
「あ!アッキ…くん」
「斎藤先輩…!」
まさかの彼、横から登場!
いつから居たんだろ!?
いつから見られてたんだろ!?
「アキくん何してんの!?」
付き合う事になったあのホワイトデーに、彼から切実なお願いをご所望された。
「斎藤先輩も、飲み物買いに来たんですか?」
「まぁ」
頼むから、人前ではアッキーって呼ばないで欲しいって。
「そうなの!?偶然だね!あたし達も…」
「あたし達も飲み物買いに来たんですよ」
「そう」
だから彼の友達の前だったり、学校に居る時は「アキくん」って呼ぶようにしてる。
それはあたしの友人の前でも同じ事。彼が居る時はこうして呼び名を変えるようにしてる。
「アキくん1人?珍しいね!」
「そりゃ先輩だって1人で飲み物ぐらい買いに来るでしょ」
彼が柱に腕を組んで寄りかかってる…
…――かっこいい…
「ってか、さっきから会話持ってかないでよ!あたしが話してるのに」
「…はいはいごめんね。じゃあ、あたしは先に戻ってるね」
「何でよ」
「…鉄は熱いうちに打つんでしょ?」
友達はそう言ってあたしに耳打ちすると、彼に会釈して歩いて行った。
「買った?」
「え?」
彼は柱から離れると「飲み物」と言いながら自販機に近づいて、
「何がいる?」
あたしの返事も待たずに小銭を入れた。
「ありがとー!」
だからウキウキでリンゴジュースを選択した。
ガコンっと音がして、買って貰ったリンゴジュースを自販機から取り出し、彼は何を買うのかなって、その動作を斜め後ろから見つめた。
「コーヒー好きだね」
彼が選んだのは缶コーヒー。
しかもブラック。
「そんな苦いの良く飲めるね…」
「そんな甘いの良く飲めるな」
この差は何だろうなと、つくづく思う…
制服のズボンのポケットに片手を入れてコーヒーを飲む彼。
紙パックにストローを刺して両手でリンゴジュースを飲むあたし。
これで良いのだろうかと、考えてしまう。
「あのね、ジュース買ったら教室に行こうと思ってたの」
「聞こえた」
「えー!?聞いてたの!?」
「いや、聞こえた」
あくまでも聞いたんじゃない。聞こえてきたんだ。と彼は言う。
「熱い鉄は熱い内に打たねばって何だよ」
「……」
そこ、一々掘り返さなくていいのに…しかもちょっと顔が呆れてるし。
「ミズキ」
「……」
「話って何?」
自動販売機の前で話す事でもないから、近くの柱の前…さっき彼が寄りかかってた所まで行くと、
「あのね、」
あたしは覚悟を決めた。
「クリスマスなんだけど、」
「……」
「え…?」
急に彼が無言で眉間に皺を寄せたから、思わず戸惑いの声が漏れた。
「あ、あの…」
「……」
「だからね、」
「……」
「今日、何か予定ある?」
あまりにも険しい表情だから、尻込みして遠慮がちに聞いてしまった。
「悪ぃけど、今日一緒に帰れねぇから」
彼の返事は、質問に対するものじゃ無く、納得出来るものでもなかった。
「話ってそれ?」
「え…」
「それだけ?」
「う、うん」
「じゃあ、もう戻るわ」
そして、あたしを奈落の底へ突き落とした。
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