第95話

「あー、くそっ」


「え?」


何事かと思えばニシヤマくんはいつの間にか髪の毛を拭く手を止めて、いつから持っていたのか煙草の箱の中身を全てテーブルに出していた。


「ジーパンのポケットに入れてた買ったばっかの煙草、全滅」


「買ったばっかって…今日ずっと雨でしたよね?」


「九時ぐらいは雨やんでたんだよ。だから買ったのに、一本吸った直後にあんなに降り始めやがって」


その後もニシヤマくんはまだ諦めきれないのか、残りの十九本の煙草を一本一本しっかりと少しでも吸えはしないかと確認をしていた。


「…どこに入れてたんですか?」


よく見れば私の渡したバスタオルが大きかったおかげで、肩にかけていることで上半身の露出部分は少なくなっていた。


「ズボンの後ろポケット」


「そりゃ無茶ですよ」


「はぁー…もういいわ。諦める」


そう言ったニシヤマくんは本当に残念そうで、少し可愛く思えた。



「はい、諦めてください」


「そんな笑顔で悲しいこと言うなよー」


「あははっ」



ニシヤマくんって意外に母性本能をくすぐるタイプなんだなぁ…



気付けば私の口元は緩くなっていた。



「てかお前もスカート濡れてる。着替えてこいよ」


「あ、はい」



あ、そうだ。


私、保護者参観みたいな服のままだったんだ…


こんなのジャージとかの方がはるかにマシだな。



「あと俺の服よろしく」


「はいっ…!」



私は部屋着のジャージとTシャツを持って、脱衣所に向かった。


脱衣所にはほんの少しだけもわっとした空気が残っていて、その空気はさっきまでニシヤマくんがシャワーを浴びていたことをしっかりと物語っていた。




私の置いておいたアメニティは、歯ブラシだけが開けて使われていた。



そっか。


さすがにカミソリとかは今は使わないか…



脱衣所の戸の向こうからゴゴゴゴッというケトルのお湯の沸く音が聞こえて、私は慌てて着替えを済ませた。



ニシヤマくんの濡れた服を浴室にかけて、浴室乾燥のタイマーをセットして私は部屋に戻った。

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