第87話
知りたいと思った。
ニシヤマくんの思っていること、
考えていること、
何が好きで何が嫌いか、
何に惹かれて何に目を奪われるのか。
どんな小さなことでもいい。
それはきっと今の私にとって何よりも大切なことだと思うから。
私は目の前のニシヤマくんを見上げたまま、左側にあったドアノブを掴むとそれを勢いよく引き開けた。
「……」
「……」
それでもドアノブを掴んだままじっと見つめ続ける私に、ニシヤマくんはまたフッと笑った。
「…入んねぇの?」
ニシヤマくんのその声はなんだか楽しそうだった。
「…聞いてんのか?」
「え…あっ、は、入ります…!!」
私が慌てて玄関に入ると、「自分の家なんだからちっとは落ち着けよ」と笑いながらも私に続いてニシヤマくんが玄関に入ってくるのが分かった。
———…ガチャンッ
背後で玄関のドアが閉まる音が聞こえると共に、外の雨の音は一気に遮断された。
トンネル内とは比べ物もならないくらいの静けさに、私の心臓はこれまた飛び出そうなくらいに激しく暴れ始めた。
毎日この部屋に帰ってきているはずなのに、まるでここに来たのは初めてなんじゃないかというくらいに慣れない場所に思える。
「……」
「……おい」
「…っ、はいっ…」
背を向けたまま玄関でまた固まった私に、ニシヤマくんは痺れを切らしたように声をかけた。
「お前さ、一つ一つの動作に時間かけすぎだろ。部屋入るまでに何回止まるんだよ」
「だっ、だっていつもは一人だし、誰かと一緒にこの部屋に帰ってくることなんて」
「だから俺帰ろうかって言っ」
「それだけは絶対に嫌ですっ!!!」
思わず遮るように張り上げた声に、ニシヤマくんは話すのをやめた。
本当、私のどこにこんな勇気があったんだろう。
「……おう。じゃあ早く入ろうぜ」
「……はい」
私の声はとても小さかった。
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