第86話

「まぁそうだけど……だから俺はどうしたんだって聞いてんだろ?」


「違うんですっ…部屋に入れることが嫌になったとかそんなんじゃなくてっ、」


「……」


「…後悔して欲しくないんですっ…!!」


「…は?」



私は合コンでたしかに惨めな思いをしたけれど、でも本音を言えばそれより気になるのはあの男の人達に“来るんじゃなかった”と思われるんじゃないかということだった。



私の存在に価値なんてないみたいな、


私のいる場所で過ごしたその時間が無駄だったみたいな、


そんな風には思われたくなかった。



もし今日のあの合コンの参加者の中で“来るんじゃなかった”と思う人が一人でもいたとするならば、それは絶対に私のせいな気がするから。




上手くやれなかった私の実力不足…


でもその実力がどうすれば養われるのかなんて私は知らない。




爪痕なんて全く残せていないことは自分でもしっかり自覚しているけれど、それでも無かったことにされたくはない。





透明人間なんて、


なりたくてなってるわけじゃないから。





「来るんじゃなかったとか思われたくないからっ、」


「思うかよ」


ニシヤマくんは私の言葉を遮るとその直後にフッと笑う声が今度はしっかりと聞こえてきて、私は思わず少し目を見開いた。


「えっ」


「コーヒー飲ませてくれんだろ?」


「は、い…」


「んでシャワーも貸してくれて、服も乾かしてくれんだろ?」


「……」



この人は何も変わらない。


あの高校生の時に感じた周りとは少し違った空気とか、言葉遣いとか、



でも、笑顔はどうだろう。



あの時は笑ってるけどいつもそこまで楽しそうには見えなかったけれど、



「俺からすればメリットしかねぇじゃん」



そう言って笑う彼のこの笑顔は、一体どっちの笑顔なんだろう。



嘘か。



本当か。



距離が近すぎてなのか、見分けがつかない。



だからきっとあの時ニシヤマくんの周りにいたみんなも気付かなかったんだろう。








ニシヤマくんは笑っているようで笑っていなかったことに。

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