第82話

「あっ、あのっ!!」


今日の私は何回“あの、”という言葉を口にする気なんだろう。


言葉を発してみれば震えていたのは手だけではなかったことに気がついて、恥ずかしいくらいに震えるその声に自分でも訳が分からないくらいに動揺した。



でもっ、…だって部屋だよ!?


二十四年間、ほぼ透明人間で生きてきた私の部屋だよ!?


しかも相手はあのニシヤマくんだよ!?



そりゃ震えるなって方が無理があるでしょ…!?



私の声が震えていたことに気付いているのかいないのか、ニシヤマくんは普通のトーンで「ん?」と聞き返した。



「なっ、何もない部屋ですけどいいですかっ!?」


私は玄関に体を向けたまま、後ろにいるであろうニシヤマくんに声をかけた。



やばい…!


なんかここに来てこの状況がかなり恥ずかしくなってきた…!!



「別に俺はお前の部屋に何か期待してるわけじゃねぇよ?」


「でっ、でもっ、何もない上にめちゃくちゃ地味なんですけどいいですか!?」


「……いいけど」


一人焦る私に、ニシヤマくんは少し間を置いて不思議そうな声を出した。




「面白いものも何もなくてっ、…あっ、それに私の部屋めちゃくちゃ狭くてっ…」


「……」


依然玄関の方を向いたままの私に、ニシヤマくんは遂に何も言わなくなった。



「……あっ、あとっ、」


「なぁ、」


突然言葉を遮られて、私は思わず固まった。


「……」


「おい、」


その言葉は依然乱暴なままなのに、口調はとても優しかった。



「……は、い…」


私の声は驚くほどに小さくて、私はまた恥ずかしくなってさらに下を向いた。


「こっち向けよ」


「……」



…向けない…


ここまで来て一人で焦ってるなんて馬鹿みたいだし、そんな動揺丸出しの顔なんて見られたくない…




だってせっかく出会えたんだから。


九年かかって、やっとニシヤマくんに…



それならちゃんと落ち着いて、もっと余裕のある人として出会いたいからっ、———…



「おい、こっち向けって」


———バンッ



ニシヤマくんは落ち着いた声でそう言うと、背後から右手を伸ばして私の目の前にある玄関のドアに手をついた。



「っ…!!」










いや…あのっ、…










この状況は一体っ…

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