第79話

私は持っていた傘を高く上げて、その中にニシヤマくんを入れた。



「…何やってんだよ」


「何って…あ、すみません、私傘はこれしかなくて、」


「いや、じゃなくて俺はいらねぇから先行けよ」


ニシヤマくんはそう言うと、目の前の依然大雨が降り続けるトンネルの外の方を指差した。


「え!?いやでもっ、」


「ここまで濡れてたら変わんねぇって。俺は後ろからついて行くから」



なんかそれはそれで怖くない…?



なんて思いながらも、それよりも私が引っかかるのはやっぱりニシヤマくんがこれ以上濡れてしまうことだった。



「大丈夫ですよ!この傘そこまで小さくもないし、頑張れば二人で入れますよ!」


なんなら私の体が大半濡れたっていいから同じ傘に入りたい。



「ほら、こうやって身を寄せて歩けば、」



もはや願望のような思いでそう言って一歩近付いた私に、



「いいって…!!」



ニシヤマくんは、私がニシヤマくんの真上に持ち上げていた傘の持ち手を私の手ごと掴んで私の方へと押しやった。



その力は強くて、


私は傘を押し戻されたことよりもギュッと掴まれたその手にこれでもかというくらいに心臓が飛び跳ねた。


今から私の部屋へ行こうとしているのに、私こんなことで心臓飛び跳ねてて大丈夫か…!?


心臓、持つか…!?



「ほら、行けよ」


ニシヤマくんは傘の持ち手を持つ私の手を離すと、左手で軽く私の背中を押して雨の中へと足を踏み出させた。



気を抜いていた私はそのまま雨の中に一歩踏み出して、その瞬間バチバチバチッ!!と激しい雨が傘にぶつかり始めてさっきまでの異様な静けさが嘘みたいにうるさくなった。


そのまま振り返ると、ニシヤマくんはまだギリギリトンネルの中にいて私の方を見ていた。





きっと私が歩き出すのを待っている。

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