第77話

頭でははっきりとそんな自分をおかしいと思っていたけれど、その思いは今の私を止めるほどの力は持っていなかった。



それに、



全身びしょ濡れのニシヤマくんをこのまま放って帰れない上に、私はこのチャンスを逃したくない、…



となればもう、私はニシヤマくんを連れて帰る以外に選択肢はない。


かと言ってそれをストレートに言うのは今の私でもさすがに恥ずかしくてできなかった。




「その服くらいなら、二時間くらいあればしっかり乾きますよ」



だからこんな遠回しなこと…




「……」


「あと、…あっ、それからもちろんタオルも貸します!」


「……」


何を思っているのか、ニシヤマくんは黙ってじっとひたすら私の目を見つめていた。



「あとは…えっとー……」


「……」


「……」


「……」





…そんなもんかな?


買い物に行ってないから食べるものだって大したものはないだろうし、うちには楽しいゲームがあるわけでもない。


地味な私は部屋まで地味だ。



それでも必死に何か捻り出そうとしていると、






「…コーヒー」





ニシヤマくんのボソリと呟く声が聞こえて、俯きかけていた私は勢いよく顔を上げた。




「えっ…!?」


「コーヒー飲みてぇ…」


「っ、ありますっ…!!!」



私のその声は馬鹿みたいに大きくて、この小さなトンネルに大きく反響した。

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