第74話

「うち、近いんですけど、」


「だからなんだよ!!」


「近いっていうか、もうすぐそこなんですけど、」


「ならさっさと帰れよ!!」


イラついたように声を荒げるニシヤマくんに対して、私はなぜか淡々と話をしていた。



そんな怒らなくても…



私はニシヤマくんと目線を合わせるように目の前にしゃがみ込むと、さしていた傘を右肩に引っ掛けて空いた両手を自分の膝に乗せた。



「そんな状態でずっといたら風邪ひきますよ?」


「ひかねぇって…!!!」


「えっ、なんで分かるんですか!?」


ニシヤマくんは「はぁ、」とうんざりしたように息を吐くと、右手でガッと前髪をかき上げた。



「俺の体のことは俺が一番よく分かってんだよ」



その仕草にも、そのせいでよく見えるようになったその顔にも、私の目を真っ直ぐに見て話していることにも、



それから荒い口調の強さがさっきよりも気持ち程度和らいだことにも、



もう何もかもにドキドキして、恥ずかしいはずなのに私はそんなニシヤマくんから目が逸らせなかった。


やばい、ずっと見てられる…



「大体風邪なんかひいたところで二、三日寝てりゃあ治るだろうが」


ニシヤマくんのその言葉に、ついつい見惚れていた私は思わずハッとした。


「っ、それは違います!!風邪を舐めてはいけませんよ!?それで亡くなる人だっているんですから!!」


私のいたって真面目な反論に、ニシヤマくんは私を馬鹿にするようにフッと笑った。



馬鹿にするように……それでもやっぱり私にはその表情すらもドキドキ以外の何物でもなくて、完全にときめいていた私は思わずまた見惚れてしまっていた。



「お前なぁ…そうだとしても俺が死のうが生きようがお前に関係ねぇだろ?」


「…っ、…」



なんでそんな急に優しい口調になるのっ…!!

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