第72話
「…ここで何やってるんですか…?」
「関係ねぇだろ、どっか行け」
ニシヤマくんはこちらを一切見ずに吐き捨てるようにそう言った。
「でも濡れてるから、」
「お前に関係ねぇだろ」
会話…してる…
内容はともかく、これは誰がどう聞いたって間違いなく会話だ。
“お前”とか、
“関係ねぇ”とか、
そんな言葉でも私は全く気にならなかった。
私ってやっぱりなんでも良かったんだ。
甘い言葉が欲しいなんて、そんな贅沢は言わない。
私にだけ向けてくれた言葉だったら、何でも良い。
もっと聞きたい。
「あの…傘、どうぞ」
私はそう言って、未だにさしたままだった傘を目の前でしゃがみ込むニシヤマくんに向けて差し出した。
「っ、はぁ…」
ニシヤマくんはわざとらしく嫌味のこもったため息を吐くと、またさらに眉間にシワを寄せた。
「私家近いので、傘いらないです」
「……」
「このトンネル抜けたらすぐなんです」
「……」
「あの…傘、」
「いらねぇよ、マジでどっか行けって…!!」
ニシヤマくんは少し大きな声でそう言うと、正面に顔を向けたまま目だけを私に向けた。
ちょっとビックリして肩が一瞬震えたけれど、それ以上に私は今自分に起きたことに驚いていた。
さっきよりもしっかりと目が合った。
たったそれだけなのに、安藤さんでも今日会った男の人達でも感じなかったものが私の脳内をかけめぐった。
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