第69話

高校の時なんて一度も自分から話しかけることなんてできなかったし、この半年だって一度も私から歩み寄ろうなんて考えもしなかった。



だって、見てるだけで十分だったから。



遠くから、ただこっそり見ていられたらそれで良かったから。







でも神様、



それじゃあダメなんでしょう?




だからこんな絶好のチャンスをまた私にくれたんでしょう?




神様は親切だ。


何度も私にチャンスを与えてくれる。


でもきっともうこれはラストチャンスだと思う。



ていうか、これで何もできないならもう私は一生何もできない。




見てるだけでいいなんて、そんなわけない。


それならあんな嫉妬なんてするわけない。




ニシヤマくんを振り返ってかけた私の言葉は、覚悟を決めて発した割に小さくて大雨の音に一瞬で飲み込まれた。


その証拠に、ニシヤマくんは俯いたまま動かなかった。


ニシヤマくんはしゃがみ込んだ両膝に両腕をだらんと伸ばして乗せていて、その指先からポタリと水滴が落ちた。





容赦なく降り注ぐ大雨の音にそんな中でもトンネル内には異様な静けさ、それからジメジメした空気に濡れた足元、


でもなぜか今の私にはその全てが心地良かった。




———…コツン、コツン、コツン、……コツンッ!




私はすぐに来た道を戻り、しゃがみ込んで俯くニシヤマくんの目の前で足を止めた。



そんな全く迷いのない自分の行動には我ながら少し驚いた。


でも少しだけ、


ほんの少しだけワクワクした。



私、どうするんだろう。


何するつもりなんだろう。

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