第68話

一気に心臓がバクバクと暴れ出して、指先は少し震えていた。


私は思わず片手で持っていた傘の持ち手を両手でぐっと握りしめた。




俯いて動かない…



寝てる…とかじゃないよね?


ていうか、生きてるよね…?




コツン、…コツン、…




ゆっくり、一歩ずつ私は足を進めた。




こんなところで何やってるんだろう。


なんでびしょ濡れ?


ていうか、ここからいなくなったわけじゃなかったんだ…



じゃあどうして橋の下に帰らないんだろう。


そこまで濡れてたらもう今から濡れたって何も変わらないと思うんだけど…




私がすぐそこまで近付いても、ニシヤマくんは顔を上げはしなかった。


でも、よく見ると肩は少し動いていた。




生きてる、良かった……




コツン、…コツン、………………コツン。



私はニシヤマくんから三歩ほど通り過ぎたあたりで、思わず足を止めて振り返った。



















「…あの、」











一体私のどこに


こんな勇気が眠っていたんだろう。




私はなぜかよく分からない覚悟を決めていた。




合コンなんてものに参加したから、だからこんな今までにはないような行動力が湧き起こったのかな。


あんな過酷な三時間弱を過ごしたことは、自分が思うよりもしっかり身になっていたようだ。


経験値としてはきっと何も変わっていないけれど、でも今の私にはニシヤマくんに声をかける勇気さえ出れば十分だ。



あの合コンの時間を思えば、ニシヤマくんに声をかけることだってさほど気にならない。




ありがとう、合コン。


ありがとう、透明人間。








透明人間だった合コンに背中を押されるなんて、


私こそ一体何者だ。

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