第67話

土手沿いの先には線路の下を潜るように小さなトンネルがあって、そこの頼りない蛍光灯が暗闇の中にぼんやりと浮かび上がっていた。


あれを通れば私の住むアパートの正面入り口へ回れるはずだ。



私はそのトンネルに向けてゆっくりと足を進めた。



雨、雨、雨、…


私は梅雨が来るたびに彼を最後に見たあの駅での光景を思い出すのか。



それともそんなことは関係なく、ずっと毎日思い出し続けるのかな。









私っていつまで立ち止まったままでいる気なんだろう。




一体これに何の意味が———…




「———…!!」




その小さなトンネルに入った瞬間、私は思わず足を止めた。



傘はさしたままだったけれどトンネルに入ったおかげで傘にあたる雨音は一瞬で遮断されて、雨音はしっかりと聞こえるはずなのにその小さくて短いトンネルには異様な静けさがあった。





「ニシヤ…く…」





ザーザーと振り続ける雨、




土手沿い、




その先の小さなトンネル、





その中には、私がずっと会いたくて仕方のなかった彼がいた。




驚くあまり私は思わず名前を呼んでしまったけれど、その声は小さすぎたのとこの大雨のせいで彼に届きはしなかった。




トンネル内の私から少し離れたところで、彼は壁にもたれるようにしてしゃがみ込んでいた。


俯いているけれど、間違いない。


ずっと見てきた私が見間違うはずがない。


あれは絶対にニシヤマくんだ。



その距離、約五メートル。


こんなに近付いたのは高校の時以来だった。



でも、なんで…


なんでそんなっ…




















ニシヤマくんは、頭からバケツの水をかぶったかのように全身びしょ濡れだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る