第63話
「…私、一人で帰れるので大丈夫です」
何もできなかったんだから、最後くらい気を利かせなきゃ。
「ユマちゃんを送ってあげてください」
「は?何言ってんの、ナナミ?」
ユマちゃんのその声はほんの少し怒っているようだった。
「今日はナナミのために、」
「うん、だからもう大丈夫」
だってもう合コンは終わったんでしょ?
「すごく楽しかったよ。何もかも、二人のおかげ。本当にありがとう」
笑顔でそう言った私に、ユマちゃんは何も言わずに私を見ていた。
「…ナナミちゃん、俺に気ぃ遣ってる?それなら俺、本当に」
「いえ」
私は“ケンちゃん”の言葉を遮ると、今度はユマちゃんから“ケンちゃん”に笑顔を向けた。
「まだ電車もありますし、駅から家も近いので」
「……」
「……」
「それよりユマちゃんの方が心配です。こんな可愛い子が一人で帰るなんて危ないですよ。私は本当に大丈夫ですから」
「……」
「……」
なんで二人は黙ってるんだろう。
今の私、痛々しい…?
…何でもいいか。
“私”だし。
「ユマちゃん、また月曜日ね」
私はユマちゃんにそう言って“ケンちゃん”の方にも軽く頭を下げると、二人に背を向けて歩き始めた。
しばらく歩き進めても二人が私を追ってこなかったことに、私はとても安心した。
一人に、なりたかった。
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