第62話

…疲れた。


私が誰にも聞こえないくらいに小さく「ふぅ、」と息を吐くと同時に、




「…ありえない」




ボソリと呟くようなユマちゃんの声が聞こえてそちらを見れば、ユマちゃんは今帰って行った男三人の小さくなった背中をじっと少し睨むような目で見つめていた。



「…え?」


「普通女置いて先帰るか?」


「いやまぁ俺いるし」


“ケンちゃん”は宥めるようにそう言ったけれど、ユマちゃんは「だとしてもこっちは女二人いるんだよ!?」と少し声を荒げた。



「どっちか送ろうかってなるでしょ、普通」


「あぁー…まぁ…」


「……」


“ケンちゃん”は少し困った顔をしていたけれど、私は何も言えなかった。



…普通が分からないから。



「俺が二人とも家までちゃんと送るよ」


「いや、私は良いからナナミ送ってってあげてよ」


「二人とも送るよ。明日も仕事休みだし」


「いや、いい」



「……」


せっかく二人が私のことについて話してくれているのに、やっぱり私は黙ったままだった。



でも、私の頭はやけに冷静だった。




だってもう合コンは終わったから。


気を張る必要なんてどこにもない。




「まだ十時にもなってないし」


「だから私はいいって。ケンちゃん、ナナミのこと頼んだよ?」


「いや、それはもちろん。でもユマも送るって」


「だからいいって、しつこいな」


「いやいや、だって、」


「———…あの、」



私の声には大したハリはなかったけれど、しっかりと二人には届いたようで顔を見合わせて話していた二人は同時にこちらに顔を向けた。

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