第59話
「…すみません、私お手洗い行ってきます…」
「あぁ、はい、どうぞ」
カイくんはやっぱり面接官みたいだった。
トイレで用を足して鏡の前に立つと、気持ち程度に女を意識した自分の姿が目に飛び込んできてとても気持ち悪かった。
「………………地味…」
腕時計を見ると時刻は九時だった。
そろそろ終わるかな。
よく頑張った、私…なんて思いながらトイレを出て部屋に戻ると、みんなさっきと変わらず楽しそうに話をしていた。
そんな中、さっきと変わったことが一つあった。
きっとこの部屋の誰も特に気にしてはいない。
私の隣に座ってこちらに体を向けていたはずのカイくんは、私の座っていた席に背を向けるように座って反対側の女の子と話していた。
この席替えの本質はきっと男女ペアで話しましょうというものだと思っていたけれど、カイくんが隣の女の子と話すせいで男二人で女の子一人を挟むような形になっていた。
それもアリなんだ…
いやでもそれは私がトイレで席を外したから、カイくんが暇になっちゃっただけ。
…な、わけはない。
案の定、私が元の席に戻ってもカイくんはこちらに背を向けたままだった。
もしかしたら私が戻ってきたことに気付いていないのかもしれない。
だって今の私、透明人間だから。
私が透明人間になるタイミングはここだったのか、なんて思いながら私は無意識に目の前のおしぼりで手を拭いた。
今まではユマちゃんや“ケンちゃん”に助けてもらっていたけれど、二人を失った私はこんなにも簡単に透明人間になってしまうんだなぁ。
もちろんカイくんに声をかけようなんて気はさらさらなかった。
かけるとしても、何てかけたらいいの?
“私戻ってきました”とか?
“私とも話しましょう”とか?
いやいやいや……………ないでしょ。
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