第56話

大人数の場だとそこまで気にならないのに、八人という少人数でしかも個室。


ここまでキツいものかと、透明人間に慣れている私ですらもさすがにメンタルが一気に削られた。



気付けば私はお酒を一口飲むたびに左腕に付けていた腕時計を確認していた。




全然進まない…




気付けば“ケンちゃん”以外の男三人は私とユマちゃん以外の女子二人に夢中で、“ケンちゃん”とユマちゃんと私は三人で話をしていた。


同じ部屋で同じテーブルに座っているのに二手に分かれているのはなんだか少し不思議な感じだった。




お店に入ってしまえば今度こそ透明人間になるかと思っていた私だったけれど、ユマちゃんも“ケンちゃん”も私を透明人間にはしなかった。



ユマちゃんは何度も私を話の中心に持って行ってくれた。



「ナナミは料理が上手いんだよ」


「へぇー!たしかにナナミちゃん料理できそう!」


“ケンちゃん”は優しい人なのか、そんなどうでも良いような情報にもちゃんと反応を示してくれた。




でもそれも長くは続かない。



それは確実に私の実力不足だ。




「いや、全然ですっ…」





ほら、こんなつまらない言葉しか私は返せないから。





「ユマもナナミちゃんに教えてもらえよ」


「ちょいちょいちょい、できないテイでいうのやめてくれる?」


「できんの!?」


「やる気があれば」


「あははっ!それ言う奴は大概できない奴!!」



恋愛経験のない私にも分かる。


“ケンちゃん”はきっとユマちゃんのことが好きだ。



狙うとかじゃなく、好きだ。




それでも“ケンちゃん”はやっぱり優しいのか、私を邪険に扱うようなことは一切しなかった。


もしかすると“ケンちゃん”は、ユマちゃんが私のことをずっと気にかけてくれているからそうしただけかもしれないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る