第54話
「緊張してる?」
ユマちゃんは隣を歩く私にしか聞こえないようにコソッと声をかけてくれた。
「…うんっ…」
昨日は半ば諦めのような気持ちでいたはずなのに、ここまでくれば嫌でも私の心臓は暴れ出す。
「大丈夫だよ。力抜いて気楽に行こう。ただの食事会、ただの食事会っ!」
ユマちゃんは言い聞かせるようにそう言ったけれど、私は緊張で何も言えず頷くことしかできなかった。
「あっ、いた!」
ユマちゃんの声に勢いよく顔を上げると、土曜で人が賑わう繁華街の大きな居酒屋の前に男の四人組がいた。
「ケンちゃーんっ!!!」
ユマちゃんがその四人組に向かって大声で叫べば、その中の一人がこちらを向いて手を上げた。
その瞬間残りの男三人も一気にこちらを向いて、私はさらに帰りたくなった。
やっぱり私に合コンなんてハードルが高い。
もうあとは時間が過ぎるのをひたすら待つしかない。
「ごめん、待った!?」
「いや、俺らも今来たとこ。じゃあとりあえず店入るか」
ユマちゃんが“ケンちゃん”と呼んでいたその人のその一言で、私達八人は店の中に入った。
予約してくれていたのは居酒屋の掘りごたつの個室で、私達は暗黙の了解で女性陣と男性陣に分かれて向かい合うように座った。
これぞ合コン、だな。
腰を下ろした男性陣はみんなこちらに並ぶ女性陣をニコニコしながらじっと見ていた。
なんか品定めされてるみたい…
その中で、私に目を止める人なんて一人もいなかった。
そりゃそうだ。
この三人に私が並べば、私なんて空気にしかなりえない。
掘りごたつの席ならスカートで来る意味なんてなかったんじゃないかな。
まぁ私の問題はそこじゃないんだけど。
すでにみんな会話が弾み始めている中、そんなことを思いながら私は目の前のおしぼりをじっと見ていた。
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