第50話

まだ時刻は九時半だ。


こんな朝早くなんて珍しい…



私はユマちゃんに促されるままに手袋を外してカウンター越しに立つ安藤さんに近寄った。



「どうしたんですか?」


「ごめんね、準備中に」



十時に開店するこの店の店内はまだ静かで、いつもよりも安藤さんの声がしっかりと聞こえた。



「大丈夫ですよ。…あ、コーヒーですか?」


「えっ、作れるの!?」


安藤さんはとても嬉しそうだった。


「もうレジは開けてるしコーヒーマシンも電源入ってますから。本当はダメですけど、安藤さんは常連さんなので」


「ありがとう!俺今から外出るから、めっちゃ嬉しいわ!」


「じゃあいつものアイスコーヒー用意しますね」



私はすぐに専用のカップに氷を入れて、キッチン内にあるコーヒーマシンにそのカップをセットした。



———…ピッ…



特に話すこともない私は、ものの十五秒くらいで一定の量が出てくるコーヒーを黙ってぼんやりと眺めていた。



「…ナナミちゃん、」


安藤さんの私を呼ぶその声は、なんだか改まっていて神妙な声色だった。


「はい?」


私はすぐにコーヒーマシンからカウンターを隔てた向こうに立つ安藤さんに目をやった。

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