第45話

「安藤さん、心配しなくても変な男にナナミを渡したりなんて私がしませんよ?ただ男の免疫がなさ過ぎるから交流の場を設けようってだけですから」


ユマちゃんは私がこの場にいることもそっちのけで、安藤さんにそう言った。その言葉に安藤さんは「あぁ、うん…」と少し難しい顔をして答えていた。




今、安藤さんは何を思っているんだろう。


引いてる?怒ってる?


安藤さんが怒ることなんて何もないとも思うけれど、“気になる”と言われた上で合コンに行くなんて、きっと良い気はしないよね?


何考えてんだってなるよね?


お前の分際で生意気なって思ったかな…



安藤さんは依然難しい顔をして少し目線を落としていた。



それなのに、ユマちゃんは「まぁナナミが誰かを気に入ればまた話は変わってきますけど」と少し意地悪な口調で言葉を付け足した。



安藤さんはもう何も言わなかった。





“ナナミが誰かを気に入れば…”





きっとそんな人は現れない。



だって九年もニシヤマくんを上回る人は現れなかったんだから。


それはその新しい人と深く関わっていないから上回らなかっただけだと言われればそうかもしれないけれど、でもそれで言うならよく知りもしないのに私をここまで惹きつけるニシヤマくんは一体どれほど凄いのか。





ふとフロアの時計に目をやるともう二時になろうとしていた。


「あ、私休憩終わりだ」


私は慌てて食べかけだったサンドイッチを片付けた。


「ユマちゃん、お先」


「うん、いってらっしゃい」


まだ少し休憩が残っているユマちゃんはゆっくりコーヒーをすすりながら私に軽く右手を上げた。




「ナナミちゃんっ…!」


その場を立ち去ろうとしていた私を呼び止める安藤さんの声にまたそちらを振り返れば、ユマちゃんの左隣の席に座っていた安藤さんは立ち上がってこちらを見ていた。


「はい…?」


「…あ、いや…何でもない……仕事頑張って」


相変わらず難しい顔をしている安藤さんを不思議に思いつつも、私は軽く頭を下げてその場を立ち去った。






胸がざわざわする…


合コンなんて、やっぱり安藤さんには言うべきじゃなかったんじゃないだろうか。

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