第38話

———カチャンッ!



何も言わなかった私に、ユマちゃんは持っていたカップを少し強めにソーサーに置いた。


「あのねぇナナミ、三十でも四十でもいない人はいないからね?二十四で誰とも付き合ったことない人なんて全然珍しくないんだよ?ていうかそもそも、そういうことって本人が思うほど周りは気にしてない」


「うん…でもそろそろヤバいよね、私…」



男の人と話すことすらも慣れていないなんて、ちょっと経験が浅いにも程があると思う。



「じゃあさっさと安藤さんとくっつきなよぉー」


ユマちゃんは大きな声でそう言うと、また正面のガラスの方を向いた。


「えっ!?」


急に出てきた安藤さんの名前に、私は驚いて大きな声を出した。


「あの人も意外に慎重派だよねぇ。それなりにモテるだろうに、…この店通い始めてもうけっこう経つよね?」



ユマちゃんの言葉に、私は安藤さんに二週間前に言われた言葉が蘇った。




“———…可愛いと思ってるよ、ナナミちゃんのこと”




あの時はその向こうにいたニシヤマくんに意識が持っていかれちゃってたからよく分からなかったけれど、今思えばあの時私は結構なことを言われたんだな…




「何もアクション起こしてこないの?」


「いや、そうでもない…と、思う…」


「っ、えっ!?何かあったの!?」


いつの間にか椅子の背もたれに体重をかけて座っていたユマちゃんは、驚いてバッと背もたれから背中を離して少しこちらに前のめりになった。



「…この前駅まで一緒に歩いた」


「うんうん!でっ!?」


「気になってる……って言われた……」


自分で言ってて急激に恥ずかしくなって、私の声は思わず小さくなった。


でも、ユマちゃんの反応は意外なものだった。

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