第27話

「……」


「……」


何も話さないのに、私達が駅に向かって一緒に歩く意味ははたしてあるのだろうか。


これじゃあまるで、高二のあの体育祭の時の私みたいだな。




ニシヤマくんの隣を歩いて一緒に並んで歩いた気になってた、あの時の私。



“あ、悪りぃ”



思い出せば思わず口元が緩んだ。


私の右肩にぶつかったあの感触はもうとっくに忘れてしまったけれど、気持ちは今も変わらない。




もう一度ぶつかってくれないかな…


今ニシヤマくんにぶつかられたら、私はまたさらにもう九年片想いを続けられる自信がある。


…いやいや、どんな自信だよ。



はぁ…やっぱり私って変態だ…




そう自覚しつつも、緩みきった口元はなかなか元には戻らなかった。




さっきは安藤さんって何歳なんだろうなんて思っていた私なのに、気付けばもうすっかりそんなことは頭の中から抜け落ちていた。




「…ナナミちゃんってさ、」


「…えっ、?」


自分の世界に入っていた私は、突然聞こえてきた安藤さんの声に思わず間抜けな声を出してしまった。


「何が好き?」


「何がというのは…」


「食べ物で!」


「何でしょう…」


人の好きな食べ物気になったりするんだ…


私誰のも気になったことないな…



「…パスタとか好きです」


「パスタか!何系が好きなのっ?」


さっきまでの沈黙を埋めるかのように、安藤さんは楽しそうに話を振ってくれた。


「ベタですけどクリーム系ですかね」


「あー、分かる!俺もクリーム系好きだよ!カルボナーラとか間違いないもんね」


「はいっ」


それからも安藤さんは駅に着くまで、いろんな話を私に振ってくれた。



どこのお店のパスタが美味しかったよ、とか、


クリーム系には樽を使って作られた白ワインが合うよ、とか、


甘口よりも断然辛口だよ、…とか。



その話のどれもがとても大人っぽかった。


二十八歳くらいかな…?


三十には見えないし、かと言って二十五とかにも見えない。


じゃあやっぱり間をとって二十八…?



そこまで考えてみても、やっぱり私はそれをいちいち本人に聞こうとまでは思わなかった。

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